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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)46号 判決

(争いのない事実)

一 特許庁における手続の経緯、本件発明の特許請求の範囲、本件審決理由の要点並びに第一引用例ないし第四引用例に本件審決認定のとおりの技術的事項が記載されていることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は本件発明の要旨の認定を誤つた結果、本件発明と第一引用例記載のものとの対比に当たり、両者の一致点について誤つた認定をし、また、両者の相違点<2>及び<3>についての認定判断を誤り、ひいて、本件発明をもつて第一引用例ないし第四引用例に基づいて容易に発明をなし得るものとの誤つた結論を導いた旨主張するところ、以下に説示するとおり原告の主張はいずれも理由がなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。

1 原告の主張四1について

前示本件発明の特許請求の範囲によると、本件発明の弾性型の断面形状は「<省略>」状を形成するものであるところ、前示本件審決理由の要点によると、本件審決は、本件発明の要旨を本件発明の特許請求の範囲記載のとおりと認定しながら、本件発明の弾性形の断面形状につき「U」状を形成するものとして、本件発明の要旨を認定したことが明らかであるから、本件審決中「U」とあるのは「<省略>」の明白な誤記と認めるのを相当とする(なお、この点を誤記と認め得ない場合においても、本件審決の要旨の認定をもつて誤りとなし得ないことは後記説示のとおりである。)ところ、前示本件発明の特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第七号証(本件発明の特許出願公告公報)及び第八号証(昭和四四年四月二八日特許庁受付の全文訂正明細書)によれば、本件発明の明細書には、本件発明の特許請求の範囲を除き弾性型の形状に触れた箇所として、その特許請求の範囲1中に「表面隆起模様を有する原形額縁の原形そのままを写し取りした断面凹型(b)の弾性を有する方形型枠(1)の凹型(b)」と、発明の詳細な説明の項中に「断面凹型(b)にしてその内側に隆起模様を有する方形型枠(1)を成型する」(第八号証の明細書第二頁第四行ないし第五行)、「方形型枠(1)の凹型(b)に」(同第二頁第一三行)、「方形型枠(1)の凹型(b)から額縁枠(c)を取り出せば良い」(同第三頁第一一行ないし第一二行)、「原形額縁の原形そのまゝを写し取りした断面凹型(b)の弾性を有する方形型枠(1)を用意しこの方形型枠(1)の凹型(b)」(同第四頁第八行ないし第一〇行)との各記載があるけれども、本件発明の特許請求の範囲の記載を除くと、弾性型の形状を「断面<省略>状」に形成することについては全くその記載がないのみならず、弾性型の断面形状を<省略>状に形成することによる作用効果についても何ら記載するところがなく、また、図面中第3図(別紙図面(一)の第3図)には、本件発明の弾性型の拡大断面図が示されているが、同図に図示されたところも正確に<省略>状を呈するものでなく(台型5の凹部4と断面凹型bの弾性型の間に透き間があり、凹型bの内外側には隆起ないし凹凸模様がある。)、凹状を呈するものであること、そして、本件発明の特許請求の範囲の記載を除くと、断面<省略>状をなすものとして、特許請求の範囲1中に「断面<省略>状の額縁枠(c)」と、発明の詳細な説明の項に「断面が<省略>状にして表面に隆起模様を有する額縁枠(c)が成型され」(同第三頁第一〇行ないし第一一行)、「断面<省略>状の額縁枠(c)を成型する」(同第五頁第二行)、「方形型枠(1)の凹型(b)の内側面に合成樹脂液を数回塗布して合成樹脂層(6)を形成しこの合成樹脂層(6)の内側にガラス繊維細片、短片等を混入した合成樹脂液を塗布しこれを硬化せしめて中間層(7)を形成しこの上から合成樹脂液を含浸したガラス繊維織布(8)を貼着せしめて硬化させて断面<省略>状の額縁枠(c)を成型する」(同第六頁第一二行ないし第七頁第五行)との各記載があり、いずれも、<省略>状をもつて額縁枠(c)の断面形状を示すものとして用いていることを認めることができ、叙上認定の事実によると、本件発明の弾性型<省略>状の形状は、断面(額縁枠とは異なり、内側(内面)と外側(表面)とを特に区別していない。)か凹型であり、その内外側に隆起模様を有するものを含み意味するものと認められ、この凹型をU状とみるか否かは単なる表現上の差異にすぎず、共に同じ形状を指称するものとみるのが相当である。原告は、本件発明の特許請求の範囲において「断面<省略>状の弾性型を形成し」というのは、弾性型の内側断面をいうのではなく、外側断面の形状をいうものであり、その外側断面の形状がほぼ<省略>状であることを意味する旨主張するが、前認定のとおり、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の項及び図面中には弾性型の内側断面の形状と外側断面の形状とを区別するものは見当たらないのみならず、明細書の発明の詳細な説明の項中の「断面<省略>状」の文言は前認定のとおり成型された額縁枠の形状を示すものとして用いられ、また、「断面<省略>状」の文言の意味は、前示明細書の発明の詳細な説明の項中、方形型枠(1)の凹型(b)の内側面に合成樹脂液等を塗布し、合成樹脂層及び中間層を設け、更に、合成樹脂液を含浸したガラス繊維織布を貼着硬化させて断面<省略>状の額縁枠を成型する旨の記載及び前掲甲第七号証中の図面第6図に徴すれば、内側断面が<省略>状を呈することを意味するものと解されるから、原告の前記主張は、本件発明の明細書及び図面の記載と矛盾するものであつて、到底採用することができない。なお、原告は、本件発明においては弾性型か台型に嵌着可能なことを要件とすることから、<省略>状とは台型の凹状内側断面4と密着する弾性型の外側断面の形状を記述したものであるとし、弾性型を断面<省略>状に形成する構成による作用効果をるる主張するが、前認定のとおり弾性型が嵌着される台型部分は台型の凹部4と記載されていること、並びに前認定説示に徴し、原告主張のように解することはできず、また、原告主張の作用効果についても明細書に何ら記載するところがないこと前認定のとおりであり、したがつて、原告の上叙主張はいずれも採用するに由ない主張といわざるを得ない。そうすると、本件審決が本件発明の要旨の認定に当たり、弾性型の形状を「断面U状」としたことは、それが誤記であるか否かを問わず、結局、その技術的思想の把握に誤りがあるとはいえず、したがつてまた、本件審決が、本件発明と第一引用例記載のものとを対比し、両者が「断面U字状の型を用いて、製品の表面に模様が現出できるように型抜きできる製造型」を有する点で一致するとしたことも、正当であつて、その認定に誤りはない。

2 原告の主張四2について

原告は、本件発明と第一引用例記載のものとの相違点<2>についての本件審決の認定判断を争い、第四引用例に示されたものは、美術工芸品からの母型製作であつて、これと本件発明における額縁の製造型の製作とでは、おのずから技術手段を異にし、第四引用例には、原型の底面を除いて表面に型枠材を塗布し、これを硬化させて母型を形成するようなことは記載されていないから、この点について第四引用例に基づいて当業者が容易に発明し得たとすることはできない旨主張する。しかし、前示当事者間に争いのない本件審決認定のとおりの第四引用例記載の技術的事項に成立に争いのない甲第五号証(第四引用例)を総合すると、第四引用例記載のシリコーンゴムを用いてする美術工芸品からの母型製作と本件発明におけるシリコーンゴムを用いてする額縁原型からの製造型の製作とは、その技術的手段に本質的な差異はないというべく、本件発明のように額縁原型の底面を除いて表面に型枠材を塗布して製造型を製作することも、成立に争いのない甲第二号証(第二引用例)及び第三号証(第三引用例)によると、額縁原型の底面に相当する部分が欠けている断面凹型の額縁の製造型自体は一般に知られているところであるから、当業者が必要に応じてなし得る程度のことというべきであり、したがつて、原告の叙上主張は採用することができない。

3 原告の主張四3について

原告は、本件発明にあつては、製造型がシリコーンのようなゴム液を硬化させた弾性型であるから、補強用の台型に嵌着するのでなければ、型抜きをなし得ないのに対し、第一引用例記載のものの型は弾性型ではないから、補強用の台型に嵌着する必要がないものであるのに、本件審決が、本件発明と第一引用例記載のものとの相違点<3>の認定判断に当たり、第一引用例記載のものにおいても、製造型を台型に嵌着して製品を型抜きすることは、当業者であれば当然に行うことであるとしたのは誤りである旨主張する。しかし、成立に争いのない甲第一号証(第一引用例)によれば、第一引用例には女型(製造型)の材質を限定する趣旨の記載はなく、第一引用例記載のものの女型(製造型)の材質をシリコーンゴム製とすることは、前示当事者間に争いのない第二引用例ないし第四引用例の記載事項に徴し、本件発明の特許出願時において当業者が必要に応じて適宜選択し得ることとみるべく(この点は、本件発明と第一引用例記載のものとの相違点<1>につき本件審決の認定判断するところであり、この点の認定判断については原告の明らかに争わないところである。)、このように型抜き用の製造型が本件発明のようにシリコーンゴム液を硬化させた弾性型である場合には、これを補強用の台型に嵌着して型抜きを行うことは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことであつて、この点に発明性を認めることはできないものというべきであり、本件審決の前記認定判断も、結局において、これと同趣旨のことをいうものと解することができるから、原告の右主張も採用することができない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本件発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

表面に隆起模様を有する原形額縁の底面を除いて表面にシリコーンの様なゴム液を数回塗布せしめこれを硬化させた上断面<省略>状の弾性型を形成し弾性型を原形額縁から取出した上台型に嵌着せしめた事を特徴とするプラスチツク額縁の製造型。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

(本件発明)

<省略>

<省略>

(以下省略)

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